■学歴を詐称する友人
小学校時代からの腐れ縁で、20歳をすぎた後もつながっていた友達がいる。
彼女の家は地元ではちょっと有名で。
都内某所のある地域の土地をたくさん持っている、いわゆる地主の家なのだ。
彼女のお父さん、おじいちゃん、その他親戚たち何人かで、不動産管理会社を営んでいる。
彼女の名前は、仮にA田A子としよう。
A田という苗字の家は、土地持ちで金持ちだというのが私の地元での共通認識だ。
A子は小さいころから可愛い子で、勉強もそれなりにできた。
着ている物もちゃんとしていて、育ちの良い子という雰囲気だった。
潔癖症すぎるところを除けば、性格も明るく、友達思いのいい子だった。
しかし、「うちは家柄がいいから」とか「私ってIQが高いの」とか、
「将来は親の決めた人とお見合い結婚するって決めてるんだ。うちの親みたいな
立派な人が選ぶ人は間違いないから」とか、自慢めいたことをよく会話に織り交ぜる
子だったので、そういうところは嫌だなと思っていた。
小学校を卒業した後、A子は某大学付属の私立中学へ進んだ。
そして付属高校、付属大学へと進んでいった。
しかし、ここでA子ははじめて挫折することになる。
A子はもともとある職業につきたくて、そのために特殊な学部への進学を望んでいたのだけど、
その学部はかなりの難関だった。
彼女はその学部に入学できず、まったく別の学部へ入学したのだ。
しかも、その学部は東京からかなり離れた場所にある、名前が複雑な、なにを勉強するのか
わかりづらいところだった。
望みどおりの学部には入れなかったものの、部活に励み、合コンもして男性にもモテモテで、
楽しい毎日を送っているということが、彼女の話から伝わってきた。
しかし。
楽しい大学生活の話は、全部ウソだったのだ。
彼女が東京を離れ、2年経ってはじめてその事実を明かされた。
そもそも大学に入ったというのが真っ赤なウソで。
付属大学に入れず、付属短大に入ったというのが真実だった。
「●●学部で語学の勉強してるんだ」なんて言ってたけど、本当は短大である資格を取る
ための勉強をしていたらしい。
2年経って短大卒業間近になり、さすがにウソをつき続けるのは難しいと思ったらしく
ようやく真相を明かしたのだった。
とはいえこの真相も、共通の友人であるB美の口を借りて明かしたことだった。
「なんでかくしてたの!! 2年間もウソついてたわけ?!」
私は思わず激しく責めた。B美は私をなだめようとする。
「A子もずっと悩んでたんだよ」
「B美はいつから知ってたの?!」
「……昨日。それで、あんたに伝えてほしいって頼まれて」
「……」
B美はとても優しい子で。ぜったいに怒らないB美を味方につけて、自分自身の口から
言わなかったことにも猛烈に腹が立った。
高慢なところは嫌だけど誰しも欠点はあるわけだし、別に彼女がどこの学校に入ろうが、
なにをしていようが、友達であることには変わりないと思っていたのに。
しかも、ついたウソの内容がくだらなすぎる。
「ずっと言おうと思ってたんだけど、言えなくて……。でもね、大学の学部に編入できる
かもしれないんだ。今のゼミの教授が推薦状書いてくれるって言ってくれるし。私なら
余裕で入れるって」
これもウソだなと、直感的にわかった。
この期におよんで、まだウソをつくのかと。そんな彼女がひどく哀れだった。
その後、彼女は大学に編入できなかったが、その大学の事務員になった。
就職先が決まった彼女の言い草が、また滑稽だった。
「うちの大学の職員になるには、成績だけじゃなくう家柄も良くないといけないんだ」
彼女をひたすら可哀想な人だと思う。
社会人になってからは、それほど連絡を取り合うこともなくなり、自然消滅的に
友情も薄れていったのだが、先日、数年ぶりに彼女に会った。
というか、呼んでもいないのに、私の結婚式の二次会にやってきた!
(B美が、うっかりもらしてしまったらしい……。二次会の前夜に「A子も来たい
って言ってるんだけど…ホントにゴメン!」とB美から連絡があった。謝るということは、私と
彼女の間が冷え切っているのを承知しているのだろう)
いるんですね、呼ばれてもいないのにくる人っていうのが、本当に、この世の中に……。
挙句の果てにいわれた言葉。
「まさか私より先に、あんたが結婚するなんて思ってなかったわぁ」
これ、冗談じゃなくて本気で言ってると思う。まじでびっくりした。
相変わらず、可哀想な人だと思った。
身近な人間に学歴を詐称して、家柄の良さや頭の良さを吹聴して(しかも世間一般から見たら
全然たいしたことないレベルなのに)、彼女は何を守りたかったのだろうか……。
ちなみにこの彼女、友達はB美以外にいないようです。
家柄や学歴にこだわるため、彼氏もできづらいらしい。
お見合いならいくらでもできそうな感じなのに、独身なのは不思議だね。
って、言ってやりたいですね。言わなかったけども。